財産分与

夫婦の財産はどうやって分けるか?離婚する際には、それまで夫婦で築き上げてきた財産や所有物をそれぞれに分けなければなりません。早く離婚したいという気持ちが強い場合には、十分な話し合いをせずに判断してしまう場合も多々見られます。

 

後になってもめないためにも、お互いがそれぞれ新しい道を歩んでいくために、経済面での清算もきちんと行いましょう。

離婚する際に、財産を分けることを「財産分与」と言います。財産分与の目的は、それまで夫婦が協力して築き上げてきた財産を公平に分配することです。

 

なお、財産分与の請求権は、離婚成立後「2年」で時効(正確には除斥期間)になります。

もし、財産分与をしないままで離婚をした方は、離婚後2年以内に家庭裁判所に調停を申し立てないと,権利が消滅してしまうので注意して下さい。当事務所でも,もうすぐ離婚後2年を経過してしまう方の依頼を受け,大至急調停を申立てたことがありました(その後は無事に調停で金銭による分与の合意が成立)。

 

分与の割合はどのように決めるか?不動産や預貯金など、自分名義のものは離婚後も自分のものだと考えてしまいがちです。しかし、どちらの名義であるかということだけで判断してしまうと、分与の割合が一方に偏ってしまうことも多く、公平な清算になりません。

 

基本的には、名義を問わず、夫婦それぞれの財産形成に対する貢献度によって決まるという考え方が取られています。ではどうやって貢献度を決めるのでしょうか。

 

夫が働いて得た収入で家計を支え、妻は家事に専念して生活を支えているという場合も多く見られます。夫婦共働きの場合にも、家事や子育てによって勤務形態が制限されるということもあるでしょう。

こういったことを考慮すると、財産形成に対して、どちらがどれだけ貢献したかを判断するのは非常に難しい問題です。そのため、これまでの例を見ていると収入額だけではなく、家事労働も評価の対象として、5:5として認められる傾向にあります。

 

財産分与の性質

これまで、財産分与について簡単にご説明しましたが、実は財産分与については,①清算的財産分与②扶養的財産分与③慰謝料的財産分与の3つの要素があるといわれています。

 

①の清算的財産分与については、夫婦の共同財産を寄与度に応じて清算分配するものであり、財産分与の中心的な内容です。「財産分与」という場合には、ふつうは清算的財産分与のことをいいます。

 

寄与度については、前述のとおり、原則として夫婦平等であり、2分の1ルールなどと呼ばれています。昔と違い、専業主婦の家事労働も、夫婦の財産形成に同じ程度貢献していると考えられているのです。

 

ただし、あくまで原則であるため、財産形成の貢献度に差があり、2分の1では不公平な場合は、その割合を修正します。

 

②の扶養的財産分与については、一方当事者が清算的財産分与や慰謝料だけでは、離婚後の生活が困窮する場合で、かつ義務者に扶養能力がある場合に、扶養のための財産分与を認めるものです。ただし、あくまで清算的財産分与等では自立することが困難な場合に限られます。したがって、「補充的」なものです。

 

実務上多くはありませんが、離婚によって一方が自立できないほど貧困になる場合は問題となることがあります。例えば、専業主婦で離婚後も直ぐには働けない事情がある場合などが考えられます。

 

③の慰謝料的財産分与については、財産分与に慰謝料的要素を含ませることを言います。

最高裁も財産分与に慰謝料的要素があることを認めていますが、通常は財産分与とは別に不法行為に基づく損害賠償請求として慰謝料請求するため、実益はあまりありません。そのため、慰謝料的財産分与を意識的に問題になることは多くはありません。

 

上記のうち、財産分与の中心は清算的財産分与ですので、以下では「清算的財産分与」を念頭に記載いたします。

 

どんな財産が分与の対象になるの?

清算的財産分与の対象となる財産

1.共有財産

共有名義のマイホームなど結婚後に夫婦が協力して築いた共有名義の財産です。

タンス貯金やへそくり、結婚後に購入した家財道具などもこれに含まれます。

 

2.実質的共有財産

預貯金、株、不動産、自動車など、結婚後に夫婦が協力して築いた財産ではあるが、一方の名義のものです。離婚の際には、名義に関わらず、結婚期間中に夫婦が協力して築き上げてきた財産は分与の対象となります。

 

よく問題になるのは以下の財産です。

(1)プラスの財産

① 預貯金・現金

② 不動産

③ 株式、社債、その他有価証券

④ 生命保険(解約返戻金)

⑤ 学資保険(解約返戻金)

⑥ 自動車

⑦ 貴金属

⑧ 退職金

⑨ 家財道具など

 

(2)マイナスの財産

① 住宅ローン

② 借入金

 

借金は財産分与の対象になるの?

マイナスの財産として「借金」があります。この場合、「夫婦一方の借入金は財産分与の対象になるの?」というご質問をよく受けます。この点、

 

(1)借入金も、家族の共同生活を営む目的でしたものは、財産分与の対象となります。

典型例は、住宅ローンです。そのほか、子どものための教育ローンや生活費のための借金も対象となるでしょう。一方の名義でも、家族のための借金であれば、清算の対象となってきます。

 

(2)しかし、他方で、借金も無限定で対象になるわけではありません。

家族の生活とは無関係にした借金の場合は、財産分与の対象になりません。例えば、ギャンブルなどの遊興費のための借金や、生活レベルからかけ離れた贅沢品や趣味のための借金は、清算の対象とはしません。

つまり、この場合は、借金をした当事者が単独で返済すべきものとなります。

 

(3)このように借金といっても、その目的や使途で財産分与の対象になるかどうかが変わってしまう点は、注意をすべきところです。

 

財産分与の対象とならない財産

特有財産

結婚前に貯めた預貯金や結婚前に購入した家具などです。結婚後に親兄弟から贈与されたものや相続財産などもこれにあたります。

 

また、婚姻後に購入した物であっても、衣服等明らかに夫婦の一方の専用品として使用されている物は「特有財産」として扱われ、原則として財産分与の対象とならないと考えてよいでしょう。

 

財産分与の実際の仕方

ここでは、財産分与の手順を簡単に説明します。基本は4つのステップです。

 

(1)共有財産(実質的共有財産を含む)をリストアップ

まず、お互いの共有財産として何があるのかを特定します。ここでのポイントは「相手の財産をどれくらい把握しているか」です。相手の財産を把握していないと、任意に相手が財産を開示しない限り、基本的には把握できません。

 

なお,家庭裁判所での調停や訴訟においては、お互いが共有財産の資料を出し合います。

具体的には、通帳のコピーや保険証券のコピーなどを互いに提出します。なお、マイナスの財産もあれば、借金についても特定していきます。この場合は、金融機関が作成したローンの返済表等を提出します。

 

(2)共有財産の評価を決めよう

預金は、口座内の残金で評価は明確です。

しかし、不動産など評価額が一律でない場合には評価方法や評価額を確定する必要があります。とくに不動産については、固定資産評価額や路線価、不動産業者の査定など、幾つかの評価方法があります。

 

また、複数の査定業者から異なる金額が出てきた場合は、どれを基準にするのかも決めなければいけません。

 

どのように決めるかについては、基本的には当事者が合意すればそれでよく、どのような評価方法でも構いません。合意できなければ、時価に一番近いと思われる額が基準となるでしょう。

なお、いつの時点での評価額(時価)を問題にするのかは別途問題になりますが、その点は後述します。

 

(3)プラスからマイナスの財産を引き算

共有財産がリストアップされ、その評価も確定しました。そうしたら、全てのプラスの財産から、全てのマイナスの財産を差し引きして計算します。

 

例えば、プラスの財産が5000万円でマイナスの財産が3000万円だとすると、差し引きした2000万円が財産分与して分ける対象となります

 

(4)具体的な取得物を決める

誰が、どの財産を取得するのか、具体的に決めます。また、不動産を売却して、売却代金を分けるなどの方法も検討します。

他方が不動産などを取得することにより、相手より多めに取得することになる場合には、金銭で差額の支払いをさせるなどの調整をしていきます。

 

 

いつの時点の財産が分与の対象になるの?

ところで、夫婦の財産分与の対象となる財産は、いつの時点で存在していた財産なのでしょうか?

例えば、ある夫婦が結婚7年目で別居したとします。その後も別居は続き、結婚9年目で離婚をしたとします。この場合、いつの時点での財産が、財産分与の対象となるのでしょうか?

 

この点、①別居時説②裁判時(離婚時)説と2つの考え方があります。

しかし、現在の実務では、別居時の財産を基準とすると考えられています。

つまり、前記の例でいくと、別居した結婚7年目に存在した財産が、財産分与の対象となるのです。

 

裁判例でも「清算的財産分与は、夫婦の共同生活により形成した財産を、その寄与の度合いに応じて分配することを内容とするものであるから、離婚前に夫婦が別居した場合には、特段の事情がない限り、別居時の財産を基準にしてこれを行うべき」(名古屋高裁平成21年5月28日判決)としています。

 

つまり、夫婦の協力関係は別居によって解消されたのであるから、別居時までに形成された財産を清算の対象にしようということです。このような考え方からすれば、一方当事者が、別居後に財産を散財して無くした、あるいは増やしたとしても、別居時に存在した財産が基準となります。

 

ただし、別居後も他方当事者が財産の形成に寄与した場合など、別居時を基準とすると不公平な場合は、修正が必要です。この場合は、いつの時点の財産を対象にすべきか実情に応じて決めていきます。

 

共有財産の評価時点はどうするの?

前記のとおり、清算対象となる共有財産の確定時点は決まったとして、その評価はいつの時点でするのでしょうか?

例えば、前記の例で、結婚7年目で別居して、9年目で離婚した場合を想定します。このとき、

預貯金や保険の解約返戻金は、別居時の残高や別居時の解約返戻金額を基準とします。

 

つまり、結婚7年目の預金残高や解約返戻金額が基準となります。

これに対し、不動産や株など価格に変動がある場合、離婚成立時の価格をベースとして考えていきます。

 

具体的には結婚9年目の離婚時の価格(時価)を基準とします。もっとも、離婚前に売却したような場合は、売却価格が評価額となります。

 

財産分与について

財産分与について、基本的なところを記載してきましたが、財産分与は多かれ少なかれどの夫婦にも問題となる事柄です。しかし、財産分与はそもそも共有財産を把握していなければ、分ける財産もないことになります。そこで、事前に共有財産を把握していたかが重要となり、離婚の準備で差がつくところです。

 

特に、離婚を検討している夫婦ですと、既に関係が険悪化しており、相手の収入・支出について聞き出すことができない場合や、既に別居して把握ができない状態になる危険もあります。

 

実際、財産分与について争いになった場合には、上で述べたすべての点が問題となり得ます(財産の存在自体(「他にも口座があるはずー」など)、特有財産か否か、財産の評価額、基準となる別居時はいつか、実際の分与の仕方(不動産や車の名義変更か、現金か)等々)。

 

損をしない、きっちり清算して分けるためには、早めの準備と財産分与への理解が必要だと認識しておきましょう。

財産分与についても、ご相談は弁護士までして下さい。

 

 

財産分与を弁護士に依頼するメリット>>

執筆者情報

鈴木洋平法律事務所
鈴木洋平法律事務所鈴木洋平
最も大事なこと、それは、お客様と信頼関係を構築すること。

弁護士にしか話せないこと、言えないこともあります。時間をかけても信頼関係を構築することが何より大切だと思っています。話しにくいこと、言いたくないことも出来るだけ話してもらえるよう、私はまずお客様の話す内容を時間をかけて細部までよく聴き、真意をつかみ取るように意識しています。お客様の話す内容については、単にご要望を伺うだけではなく、何故そのような心情に至ったのかを背景事情も踏まえて私なりに分析し、お客様の真意に見合った解決案を提示することを心がけています。
|当事務所の弁護士紹介はこちら
別居準備 女性モラハラ相談
女性のための離婚相談  
婚姻期間が20年以上の皆さま熟年離婚のご相談
           
女性のための離婚相談             解決事例を見る